2016/07/18

スーパーコキオキタイム

1979年7月12日、それまで長く続いていたイギリスからの支配を逃れ、タラワ島をはじめとした33の島々を含む広大な領域が、一つの共和制国家として独立を果たした。
その国家は、対外的には「ギルバート諸島」から捩った「キリバス」という国名で呼ばれることになる。
そしてその後、この7月12日は国民にとって最も特別な日の一つとなり、その日を含む1週間を「インデペンデンスウィーク」として定め、国民の休日として1週間丸々国を挙げてのお祭りが開催されることになったのである。

ということで、半年ぶりくらいの長期休暇を頂きました。
期間としては1週間+土日=9日間と、日本でいうところのゴールデンウィークかシルバーウィークに相当する。
連日、色々な催し物やイベントが開催されたりするわけだが、目玉となる日はやはり12日火曜日。
12日は朝早くから関係各国の大使などが参列する大々的なパレードがあったりする。
そのパレードがあるタラワ島の政治の中心地「バイリキ」においては、普段は見られない出店なども数多く出店し、タレントショーや美人コンテストなんていうのも開催されるというから驚きだ。

私もこの1週間、何日かはバイリキへ向かい、色々なイベントを見たりした。
ちなみに、どこでいつどのようなイベントが開催されるかは、事前に新聞で全て告知される。
A4の紙4枚分に相当する数のイベントが開催されるわけだが、私の目当ては「スポーツイベント」だ。
この国でスポーツというと、一番はサッカーらしいのだが、正直サッカーは個人的に興味がない。
興味があったのは、この国で普及しているという「タイクァンドー」と呼ばれる格闘技だ。
このタイクァンドーであるが、元は韓国の「テコンドー」で実際には見たことはないが、恐らくテコンドーと同じような格闘技なのだろう。
このインデペンデンスウィークのどこかで、このタイクァンドーの試合があると聞いていたので、是非とも見たいと思っていた。
しかし、手に入れた新聞のなかに入っていたスケジュールのどこを見ても、タイクァンドーの記載が見当たらない。

残念、今年はタイクァンドーのイベントは開催されなかったようだ。

まあ、とはいっても、今回はもう一つ、是非とも見ておきたかったスポーツがあったのだ。

それは、ずばりバレーボール。

私が現在ボランティアとして所属している組織はMinistry of Health and Medical Serviceという省庁の、Health Information Unitと呼ばれる部署だ。
その部署の中で、私のカウンターパートに当たる女性が、なんとバレーボールをしているのだ。
聞くと、その女性の旦那さんもバレーボールの元プレイヤーだったそうだ。
この旦那さんが結構やり手で、タラワ島内にあるチームのうち、男女併せて3つのチームのコーチを務めており、海外遠征などにも行ったりすることがあるらしい。
カウンターパートが所属する女子バレーチームもそのうちの一つで、これら3つのチームが出場するバレーボールの試合が、このインデペンデンスウィークに開催されたのだ。

予選は、インデペンデンスウィーク始まってすぐの7月9日。
カウンターパートが所属するチームは順当に勝ち上がり、決勝戦へコマを進めた。
一方、旦那さんがコーチを務める男子チームはというと、最初の2セットを落とし、危機的状況から3セット連取の大逆転劇を見せ、辛くも決勝進出を決めた。

決勝戦のある7月12日は奇しくもインデペンデンスデイ。
多くのキリバス人が集まるインデペンデンスウィークの中でも最も盛り上がるこの日、バレーボールコートの周りには人だかりができていた。
そんな中行われた決勝戦。まずは女子バレーからだ。
カウンターパートは残念ながら控え。
しかし、チームは3セットを楽々先取し、あっけなく優勝を決めてしまう。
圧巻だったのは、そのレシーブ力。
不足気味の攻撃力を補って余りある防御力で終始相手を圧倒しての圧勝となった。

続く男子バレーは、接戦となった。
旦那さんが率いるチームのうち、女子チームが防御力とするならば、男子チームは攻撃力。
中でもエーススパイカーのスパイクが面白いように決まる。
しかし相手チームの攻撃力もなかなかのもので、試合は双方打ち乱れての打撃戦となった。
1セット取れば1セット取られる、これを二回繰り返し、迎えた最終セット。
わずかに、こちらのチームの地力が勝ったのか、デュースまで持ち込んでギリギリで勝利を収めることになった。

最後の最後、エーススパイカーが決めたスパイクでラストポイントが入った瞬間に沸き起こる大歓声。
控えからチームメイトがコート内に乱入、コーチであるカウンターパートの旦那さんも乱入。
コート内は、優勝を喜ぶ熱気に包まれた。

さて、男女両チームの優勝を見届けて暫くして、さて今から何をするかと思ってコートのサイドでボーっとしていたら、今回の優勝の立役者である旦那が話しかけてきてくれた。

「ようMasu(私のここでの仇名)、あんた酒飲めるか?」

「お、旦那!優勝おめでとう!俺?酒なら少しは飲めるけど」

「よし、じゃあ飲むぞ!」

「え?お、おう」

そういって、彼は私をチームメイトが集まっているところへ引っ張っていく。

「ほれ、どうぞ」

「ん、これは?」

「コキオキっていうんだ、飲んだことないか?」

「いや、名前はよく聞くけど、初めて飲むな」

「そうか、じゃあこれの飲み方を教えてやる、こう飲むんだ!」

そう言うなり、私に渡したコップとは別に自分が持っていたコップの中身を、一気にあおる旦那。

ちょ、イッキかよ!

コップの大きさはさほど大きくはないため、それほど量的には大変ではないと思われるが、アルコール度数的には大丈夫なのだろうか。

一抹の不安を覚えながらも、私も郷に従う。

「OK, I’ll go!!!」

コップの中身を一気にあおる。

途端に口に広がる酸味と、得体のしれない味。
これまで味わったどんなお酒とも違う、決して不味いというわけではないが、慣れが必要だ。

いや、慣れれば普通に美味いかもしれない、きっと。

この「コキオキ」であるが、材料はココナッツの「樹液」。
ココナッツの木に傷をつけ、括り付けておいた瓶に少しずつ抽出したものを発酵させて作る。
早い話が、日本でいう「どぶろく」、という話を聞いたことはあったが、どぶろくというものを飲んだことがない私には、経験上の比較対象がない。

「うっぷ、これ、アルコール度数何%だ?」

「すまん、気にしたことないからわからん」

そりゃそうだ。
基本的に自家製である以上、その発酵度合いも時によってまちまちになるだろうし、そもそもこの国の人たちがそんな細かいことを気にするわけがない。
要は、酔えればいいんだから。

気が付くと、私は男子バレーチームの面々が集う円陣に組み込まれていた。
10リットルはあろうかというコキオキが入った樽を囲んでバレーコートのど真ん中に陣取るチームメイトと私。
期せずして、私は祝勝会へ参加することになったのだ。
チームメイト以外の外国人は私一人。
それどころか、チームメイト以外のバレーボール関係者すら、私しかいない。
なんて名誉なことなのだろうか。
というか、私ここに居て良いのか。

円陣を順々に、コップが回っていく。コップが回ってきた人は、樽からコキオキを掬い、あおる。

「Hey Masu、Don't you forget how to drink it?」

「Year, I know how to drink it!!!」

私はそう言いながら、コップの中身を空にする。
それを繰り返すこと10数回。
歌って踊って笑って、あっという間に3時間が経過した。

最終的に、私が飲んだコキオキの量は、コップ17杯。
同じ方面へ向かうというチームメイトの車へ乗せてもらい、家へと向かう。
ちなみに私が住んでいる家の大家はこのタラワ島においてはかなりの有名人で、その大家の名前を告げただけで場所を完璧に把握してもらえた。

車に乗ったところまでは覚えているのだが、次に私の記憶に残っているのは、次の日の朝、とんでもない頭痛と体の重さを感じながら目を覚ましたことだ。
完全無欠のハングオーバーにより、水曜日を完全に寝潰してしまうというオチ付きで、私の人生で上位10番目以内には確実に入る「飲み過ぎ」の夜、スーパーコキオキタイムは幕を下ろした。

コキオキ、また飲みたいけど、原料がココナッツだから、コレステロールとか大丈夫かな・・・。

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